64ページ本を自家製版した所感



はじめに

 まず前提として、当サークルのコピ本は通常想像されるものとはややことなります
見たことの無い方に説明しますと、印刷所様で刷られるオンデマンド本を家庭用機械を使って自力で作ろう、といった見た目と内容になっています。
ですので手間と原価が大分異なってきます、そのことを念頭に置いて読んでいただけると幸いです。
 次にこのコラムの目的ですが、私はコピ本をこれまで14本1008冊ほど刷ってきましたが、先日64ページ本を刷った際「もうやめよう」と思うほど別格にしんどかったのです。
その所感を纏めて私がこれまで通りの自家製版をやめる・活動縮小する経緯、及び仮に同じことをする人がいた場合の注意点などを細かく記載しようというのが目的です。

これまでの本との差

 今回刷った本は64ページで通常の同人誌としても結構分厚い部類に入ります
それ以前に刷った本の中では44ページ本が最大、時点で36ページの本をそれなりの部数刷っています。
いずれもそれなり~に分厚い部類ですのでこの延長線上で今回も刷れるだろうと高をくくっていたのですが大きな間違いでした。
下に大まかなコピ本の作業工程を表します

自家製版そのものを細かく説明する意図はありませんので、このコラム内で重要と思われる部分をハイライトしています。
 作業を始める前の予想としては、単純にページ数が増えただけで工程が変わったわけではないので二つ折り作業がおそらく一番大変だろうと予想していました。
しかし実際にやったところ、二つ折り作業はただ分量に応じて作業量が増えたけで、今回コピ本製作をやめようと思うまでの負荷にはなりませんでした
また、背表紙折に関しては厚みが増すほど易化する傾向にあることは経験済みだったのでその部分も変わりありませんでした。
では一体何が大変だったのか次で細かく説明します。

具体的なヤバさ

 主にヤバかったのは糊付けと最後の裁断です。
まず糊付けですが、私はホットメルトという熱で溶けて冷えて固まるという物を背表紙に付けて、それを再加熱して本文とくっつけるという手法を使っています。
最初に背表紙に張る際ホットメルトガンという専用の機械を使うのですが、口が細くて要所を重点的に貼り付けられるという性質をしています、これが仇となりました。
以前の本ならガンの口が丁度背表紙幅と同じか少し狭い程度で、工夫すれば一筆で背表紙全体に糊を広げることができました、44ページの本でも同様です。
 しかし64ページの本はその閾値を完全に超えていて…1往復してやっと全体が埋まるという状態です。
そしてその状態で本文と合体したところ、ページが取れました。
これは同人誌としては最悪な状態です、ちょっと力を加えるだけでページが取れるわけですから。コレクターズアイテム的な価値を見出す人も居る中でこの状態は本当にダメです。
 実はホットメルト以前に別の手法を使っていた時、この問題とは常に背中合わせの状態でした、ホットメルトに変えてからほぼ駆逐できた不良品かと思いきや、今回駄目な個体が急激に増えてしまったのです。
主な原因としては、糊の量が足りないという単純な物でした。44ページ本でも足りてた量の2倍を付けて足りない…背幅は1.5倍程度なのに糊の量は3倍ほどを要求されています。
どうしてこうなるのか根本原因はよくわかりませんが、とにかく何らかの閾値を超えてしまったわけです。

 次に問題だったのは最後の裁断、本の天地と小口の裁断です。
私が現在使っているのはディスクカッター、見ればどういう物かわかりますのでわからなかったらググってください。
これなんですが、64ページちゃんと入るんですよ、中に。最初心配してたんですけど意外と入るんですよね、ギリギリなんですけど。
で、安心して切ってみたらですね…

刃が下まで行かないんですよ

まあ、カタログスペック超えてるからしょうがないかなって、上からガッガッって手で押せば割と切れました、最後は手持ちのカッター使いますけどね。とにかくめっちゃ疲れるんですよ。
なにせ64ページを押さえつけたうえで刃を押し当ててるんですから、普通の本の4倍ぐらい力が要ります。
それで出来上がるのが前述した「ページが取れる本」ですよ、こんなもん心が折れます。
 上記の問題は手間と機材の導入でなんとかなります、なりますけどなればいいってものでもないんです
強い裁断機、4万円するんですよ、PS4買えますよ。
というか印刷もそうです、私トナー一個で大体120部ぐらい刷れるんですけど、正規品のトナー4万円するんです、PS4買えますよ。
リサイクル品使えばいいんですけど、通販でしか手に入らないので事前に買っておかないと詰みます。
そもそも現状200部も最終的に刷らされてるんです、同じ本を、無理です

総評

 64ページの本を60部刷るのに25時間かかりました。1時間半で完売しました、これは一体…
ともかく、64ページの本というのは完全にコピ本の規格を超えています、例えば本当に「THE・コピ本」という体裁でしたらここまで苦労しなかったかもしれません、そうかな…
経験上16~44ページの本でしたら同じ技術で作ることができます、64ページは専用の、何か勘のようなものが必要になります。
64ページ越えの本ばっかり作るという方にはいいかもしれません、あるいは話題作り。そうでない方には汎用的な技術が通用しませんので素直に印刷所さんに頼むのがよろしいかと思います。
え、締切?あのね、100部刷るとしたら絶対に3日かかります(寝るなら)、200部なら倍です。その状態で大型裁断機・および消耗品のトナーをそろえたなら…印刷所の割増の方が締切は遅いし安いです。
 今回の製本は「趣味」以外の理由が壊滅しました、以前から原価は足が出てる感じはしていましたが、まさか締切まで印刷所に負けると思いませんでした。
そして200部も刷らされます、趣味の範囲を完全に超えている…
ではこれからコピ本を始めようという人も、こいつなんでこんな摩耗してるのって見に来ただけの人も、64ページコピ本を作るときは気を付けましょう。